医師としてのキャリア形成 自分のゴールを見つけるために


伊賀「最後に、医学部の学生さんへのアドバイスを頂きたいです。今、日本の医学部で学んでいる学生達に、何を伝えたいと思われますか?」
 
武藤「『生き急ぐな』ということです。私自身、ファストトラックで出世することに囚われていた時期もありました。でも今から思えば、直接は医学と関係がないと思えることも学ぶことが大事です。
 
大学も6年で卒業する必要さえありません。一年くらい海外に行くなど、視野を広めることに時間を投資すべきです」
 
伊賀「教科書を読み、テストを受け、最低限必要な研究をして論文を書いて教授になる、それではダメだということですね?」
 
武藤「本からは学べないことがたくさんあります。実際に人に会いに行くことはとても重要です。周りに道に見える一見無駄なこと、自分には苦手でつらいことの中に、大きな学びがあります」
 
伊賀「私も、リアルに人に会いにいくことは、とても大事だと思います」
 

<元東京大学総長 小宮山宏氏と>
 
 

武藤「マッキンゼーに入ったのも、コンサルタントなど全く畑違いの人に話を聞きに行こうと考えたからです。同じ分野の人だけとしか会わないと世界は拡がらない。
 
違う世界の人から聞いた話を、自分のこれからの道にどう活かすのか、そこをしっかり考えるのが大事ですね」
 
伊賀「違う世界の人に会うことを、強く勧められているんですね?」
 
武藤「特に医学部生は、自分の知っている範囲をどう広げるか、ダイバーシティ(多様性)をどう確保するかを、常に意識的すべきと思います」
 
伊賀「医学部の中だけだと、ほんとに似通った人しかいないですもんね」
 
武藤「医者として働き始めれば、人生で今まで一度も会ったことのないような人に接することになります。学生の間に多様な人を知り、『人に強くなる』ことが大事だと理解してほしいですね」
 
伊賀「そのために、具体的にはどんな体験を積むべきなのでしょう?」
 
武藤「居酒屋でもなんでもいいですから接客業を経験するのはいいと思います。医学生のアルバイトというと、家庭教師や塾の講師が定番なのですが、あれでは自分の持っているものをはき出すだけで、得られるものがありません」
 
伊賀「せっかく医学部に入ったのに居酒屋でアルバイトって、なんだかもったいないような気がしてしまいます・・」
 

<武藤真祐氏>
 
 
武藤「お金を貰って世界が広げられる貴重な機会だと思って欲しいです。できるだけ遠いものをみれば、自分とその時点の間にあるものは総て相対化できます。
 
世界のすべてを知ることはできないけれど、できるだけ遠くのもの、かけ離れたものを知れば、後は誰に会っても、どんな機会に遭遇しても、乗り切る力がつくんです」
 
伊賀「ご自身についても、大学受験の後の数年をもっと有意義に使えたかもしれないと思われているのですね?」
 
武藤「一年くらい海外に行くとか、もっと積極的に遠い世界の人と会って話すとか、今から考えれば、もっといろいろできたはずだと思います」
 
伊賀「やっぱり、ハーバード大学の医学部の学生さんらと会ったことのインパクトが、大きかったんでしょうか?」
 
武藤「その通りです。ああいう環境って、自分がその中に身を置かないと、何が自分に足りないのかさえわかりません。いつもいる同じ場所にいたら、これでいいんだと安心してしまう。外に出ることはとても大事です」
 
伊賀「特に、トップレベルの世界を知ると愕然とすることがよくありますよね」
 
武藤「本当のトップの世界では、できるなんて当たり前で、その上で何をやるかが問われています。『できただけで満足している人達の世界』とは大きな隔たりがあると感じました」
 

伊賀「他に大学時代にやっておくべきことってありますか? 武藤さんは古典や歴史書もたくさん読まれているみたいですけど、これも大学時代ですよね?」
 
武藤「歴史書を読むと、ローマにしろ中国にしろ、何千年という時間の中で何が起こったのかを俯瞰でき、自分の人生が相対化できます」
 
伊賀「歴史の中ではひとりの人間の一生など、砂粒のようなものだと私もよく感じます」
 
武藤「そうやって、自分の人生が特別なものではないと理解した時に初めて、『じゃあ、自分は人生で何をやるべきなのか』という視点がでてくると思うんです。
 

一生の中で何を大事にするのか、自分は何をやって生きれば、死ぬときに後悔しないか、真剣に考えるようになります」
 

<各界の著名人と積極的に対話を続ける武藤氏>
 
 

伊賀「医学部生を離れて、医師として働いていらっしゃる方にも、なにかアドバイスがありますか? 医師のキャリア形成という点に関して、アドバイスをいただきたいです」
 
武藤「医師に限らないと思いますが、『40代では、個人の名前で仕事ができている』ことを目指すべきです。どこどこ大学の教授だとか、どこどこ病院の部長ではなく、固有名詞で認知され、価値を出している、そうでないと意味がありません」
 
伊賀「40代でそうなるには、30代がすごく大事ですよね。でも医学部って6年もあるし、博士号取得や研修医をやっているだけで30歳になるでしょう? 準備期間は10年しかありません。結構大変そう」
 
武藤「だから学生時代からいろんな体験を積むべきなんです。そしていろいろやってきたことを、40代、個人名で勝負する時に向けてインテグレートしていく。キャリア形成とはそういうことだと思います」
 
伊賀「スティーブ・ジョブズ氏の言う、点がつながるという概念ですね。
 
ところで最近は医師も、自由に面接を受けて病院を移りますよね。研修医や勤務医の過酷な労働条件も取りざたされているし、普通の会社員同様、辞めるべきか、もうすこし踏ん張るべきか迷っている人も多いと思います。そういった方へのメッセージはありますか?」
 
武藤「ひとつのところで成功しないと、次のところでも成功できないです。最低数年は頑張らないと自分への適性もわからないし、1年しかやらずにできるようになることなんて無いですから」
 
伊賀「我慢して、踏ん張ることで得られるものがあると?」
 
武藤「踏ん張って乗り切ったという自信はとても大事です。反対に、踏ん張りが利かなくなるのは怖いことです。少々大変だからと踏ん張れないでいると、周りの人の信頼も得られなくなります」
 
伊賀「たしかに、大学受験も『踏ん張れるかどうかを試す機会』みたいなところもありますよね。勉強の中身ではなく、あの大変さを乗り切ったかどうかを評価される、みたいな」
 
武藤「その通りです。仕事でも、ものすごく大変な時に、それでも投げ出さずに最後まで頑張った、そういう姿勢を人は見ていてくれるし、それが信頼の源になっていくと思います」
 


<武藤氏 後ろは被災した石巻市立病院>
 
 
伊賀「よくわかりました。
・生き急がず、できるだけ多様なものに触れる機会を増やすこと
・40代で自分の名前で勝負できるよう、その多彩な経験を結合して、『自分が人生を懸けてやるべきはこれだ』と思うものを見つけていくことなど、
 
武藤さんからは、医学部生向けのキャリア形成としてアドバイスを頂きましたが、実は他分野で働く人にとっても役立つアドバイスだと思います」
 
武藤「そうであればとても嬉しいです」
 
伊賀「今日は長い時間、貴重なお話をありがとうございました。これからも益々のご活躍を期待しています!」
 
武藤「ありがとうございました!」