研究者からバイオベンチャーの社長へ


伊賀「今日はお忙しい中、キャリアインタビューにご協力頂きありがとうございます。横山さんは“博士号を持つバイオベンチャーの社長”ですけれども、小さな頃から研究者を目指していたんですか?」
 


<聞き手 伊賀泰代>
 

横山「いえ、必ずしもそうではありません。小さい頃、研究者になりたいと思ったことは一度もないですね」
 


<取材当日の横山さん>

 

伊賀「そうなんですか? それでPh.D.まで取っちゃうなんてスゴイですね。じゃあちょっと戻って、最初から教えてください。高校生の頃、進学する大学の学部はどう考えて決めたんですか?」
 

横山「私の通っていた北野高校は2年生から文理が分かれるんですが、私は数学と理科が得意だったので、自然と理系に決りました。
 

理系に行くと、次は『医者かそれ以外の理系一般か』という選択肢になります。私の場合、医者にもあまり興味がなくて、理系一般に決定。後は偏差値で、『じゃあ、東大の理科一類ですかね』という、まるでなにも考えてないコースでした(笑)」
 

伊賀「高校生くらいだと、そういう人も多そうですね。じゃあ、東大の専門分野を決める“進振り”の時はどうやって専攻を決めたのですか?」
 

横山「それも消去法でした。物理はあまりに現実離れしていて興味が持てず、メカもそんなに好きじゃないんで機械や電気系もないかなと。プログラムも好きじゃないから情報系も違う。残った化学については実験も好きだったし、なんとなく肌に合う気がしたんです。
 


<高校時代 学校の旅行にて 中央列の左が横山氏>
 
 

伊賀「ずいぶん消去法のキャリア選択だったんですね・・。なにか『コレが好き!コレがやりたい!』ということがあったわけじゃないんですね?」
 

横山「ははは。そうなんです。私はあまりひとつのことに熱中するタイプじゃないんですよね。こだわりがない性格なんです」
 

伊賀「いやいや、ちょっと待って下さい。こだわりのない、熱中しない性格なのに博士号を取るっておかしくないですか? 普通、ひとつのことにスゴク熱中する人がPh.D.をとるものですよね?」
 

横山「確かにそうですね。でも私の場合は、それも成り行きみたいなところが大きかったですね。実は修士の2年目になった頃には、既に研究がかなり進んでいたんです。あと一年も研究を続ければ、博士号を取るのに必要な2本の論文は書けると見えていました。
 

研究自体はおもしろかったし、そういう段階で研究を放り出して就職するのももったいないな、と。それで博士課程に進んだんです。だから実はその段階でさえ、研究者になりたいと思っていたわけではありません」
 


<大学院での研究時代>
 
 

伊賀「そうだったんですね。博士課程は何年、在籍したんですか?」
 

横山「結局は規定通り3年在籍しました。論文の質と数だけでいえば、1年ほどで学位はとれたはずですけど、日本の組織はそういうもんじゃないんですね(笑)」
 
 

★論文は書けるのに、研究者には向いていない?★

 

伊賀「1年で成果が出ているのに、3年も在籍するのは大変そうですね」
 

横山「だから海外の大学に短期留学してみたりもしました。最終的には10本くらいの論文を仕上げたんです。本当は2本も書けば博士号の取得は可能なんですけど」
 

伊賀「えっ、10本の論文? それはまたすごいハイペースですね。普通の人が2本書く間に、なぜそんな成果がだせたんですか? 横山さんの研究方法は、他の学生と何か違っていたんですか?」

 

横山「最初に仮説をたてて、それが証明されたら論文のここに、こういう図やデータが必要だな、というイメージを最初に作るんです。次に、その図やデータが得られるような実験を計画して実施する、それだけです」
 

伊賀「なんだか当たり前のことに聞こえますけど・・・」
 

横山「ですよね。でも、その当たり前のことをやらない人がたくさんいるんです。 『なにかおもしろい結果が得られないかな-』と考えながら、漠然と実験を始める人ですね。でもそれじゃあ、結果が出ないこともあります。振り返ってみれば無用だったとわかる作業も多いんです。
 

私の場合は、仮説の証明に必要な実験だけをやるので、無駄な実験が少なかったように思います。それがハイペースで成果を上げられた理由でしょうか」
 


<大学院時代のセミナーにて>
 
 

伊賀「なるほど。仮説なしに情報収集を始めるのと、アウトプットイメージをもってから実験をするのは全く違うアプローチですよね。東大の大学院でそれができてない人が多い、ということ自体にちょっと驚きますけど。
 
でもそんな成果を挙げたら、当然、教授からは研究室に残れと言われますよね?」
 

横山「はい。先生からも助手で残って欲しいと言われたし、他の大学からの誘いもありました。でも、あんまり研究者になりたいと思わなかったんですよね。好きじゃなかったというか、本質的には向いていないというか」
 

伊賀「えっ? 研究が好きじゃなかったんですか? そんなに成果が出てるのに?」
 

横山「はい。論文は書けるけど、あまりのめり込めなかったんです。研究者は、本質的に深くネチネチずっとひとつのことを考えている、という人に向いています。寝ても覚めてもそのことについて考えているような人。でも、私はそうじゃありませんでした。
 

研究者としてやっていくならソコソコやっていけるだろうということは、わかっていました。でも、だからこそ違う道に進みたいと思ったのかもしれません」