研究者からバイオベンチャーの社長へ


伊賀「研究成果は出ていたけれど、自分としては必ずしもアカデミックな世界でやっていきたいわけではなかった。それで大学に残ることをやめ、民間企業に就職しようと考えたんですね?」
 

横山「はい。大学で基礎研究を続けて論文を書くよりは、民間企業に行って製品を作って世の中に出していくことに興味がありました。
 
何となく、大学での研究は物足りないというか、イマイチ楽しくないというか、それほど向いてなかったんでしょうね。ただ、普通に三菱化学など日本の大手メーカーに行くのも大学の研究所のような感じで、なにか別の道がないかなと考えました。
 

最初は海外の企業に入れないかと思って、欧米の大手化学メーカーに論文内容をつけてレターを送ってみたりもしました」
 

伊賀「どうでしたか?」
 

横山「なんの反応もなかったです(笑)」
 

伊賀「東大くらいじゃだめだってことですか?」
 

横山「レベルの問題というより、向こうの大手メーカーだって、日頃から有名大学の特定の先生のラボと一緒に研究してますからね。

 
そこで一緒に働いた顔見知りの若手研究者を雇うというのが、一般的な採用方法なんでしょう。少々論文内容がよくても、会ったこともない外国人をいきなり雇ったりはしないということだと思います」
 

<アメリカに留学中>

 
 

伊賀「なるほど、それで次はどうしたんですか?」
 

横山「そのときふとマッキンゼーのパンフレットを見かけたんです。それで、受けてみたら受かったので・・・」
 

伊賀「ずいぶん簡単にいいますね。受けたのはマッキンゼーだけですか?」
 

横山「はい。実は当時、就活時期に3ヶ月ほどミネソタ大学の研究室に留学していたので、日本に帰国した時には、他の会社はどこも採用時期が終わっていて受けられませんでした」
 

伊賀「マッキンゼーから内定をもらった時は迷いましたか? 研究室に残って助手になるという道もあったんですよね? 教授も反対されたでしょ?」
 

横山「先生は反対でしたね。先生としては学校に残ってほしいわけですから。あと親も、公的な研究機関に残るという安定した道の方が良さそうでした。
 

ただ自分自身は迷いませんでした。オフィスもきれいだったし、世界でも有名な会社らしいし」
 

伊賀「オフィスがキレイって大事だったんですね(笑) 友人の反応はどうでしたか?」
 

横山「当時、コンサルティング業といえばリストラ屋だと思われていて、あまりよいイメージもないですし、マッキンゼーというのも今ほど名前が知られていませんでしたので、周りの反応もいまひとつでした。そもそも研究者になる道があるのにそれに乗らないなんて、異端児扱いされる環境ですし」
 

伊賀「でも横山さんは迷わなかったんですね? 不安はなかったですか? 将来有望な若手研究者だったのに」
 

横山「若かったせいか、不安はなかったですね。自分にとっては新しいことだし、おもしろそう、という単純な理由で行ってみました」
 


<大学院時代のセミナーにて>
 
 

伊賀「研究者からマッキンゼーへ、これは大きな変化ですよね?」
 

横山「当時はそんな大きな決断のつもりはなかったけれど、後から考えれば、この時マッキンゼーに入ったことは大きな転機になったと思いますね」
 
 

★マッキンゼーから3Mへ★

 
伊賀「マッキンゼーでの在職は2年弱ですね。ずいぶん早いような気がしますけど。仕事が合わなかったんですか?」
 

横山「いえ、本当はもっと長くいるつもりだったんです。でも、あの組織はすごく人の出入りが激しくて、数年で辞める人も多い。『早いスパンでキャリアを変えていく』という世界を初めて見て驚きました。
 

そういう環境下だと、誰でも自然に自分のキャリア形成について考えるようになります。一生ここにいられるわけじゃないんだとわかりますから」
 

伊賀「具体的に辞めようと思ったきっかけはなんですか?」
 

横山「あるパートナーが退職時にされた挨拶を聞いたのがきっかけです。

 
その人は、事業会社を経てマッキンゼーに入って、またその後、事業会社に転職されるということだったんですが、その人が、『次の転職先を決める時に、マッキンゼーの経歴もだけど、むしろその前にいた事業会社の経験が評価された』とおっしゃっていたんです。
 

それでふと考えたんですけど、マッキンゼーに入ってくる人って、学生から直接入ってくる人と、どこかの企業を経て入ってくる人がいるんです。ところが学生から直接マッキンゼーに入った人の中には、その後で事業会社に行く人がほとんどいないように見えました。
 

それで自分も、これからステップアップしていくには、早めに事業会社の経験を積んでおくことが必要なんじゃないかと考えたんです」
 

伊賀「すごい。長期のキャリア形成を考えて退職したんですね?」
 

横山「自分が学部卒でマッキンゼーに入っていたら、違った決断をしたかもしれません。けれど私は博士号をとって入っているから、既に28才だったんです。マッキンゼーで5年働いてから転職を考えると、33才になってから転職することになります。
 

でも『実務経験なしに33才でゼロから事業会社に転職するって可能なのか? そんなの不可能じゃないか?』と思って、『早めに事業会社に行っておくべきだ!』と思ったんです。だから2年弱で転職を決めました」
 


<3M時代>
 
 

伊賀「キャリア形成について、すごく早め早めに考えていますよね。世の中には博士課程を終えてから『博士号をとっても職がない!』と騒いでいる人がいます。あれを聞くと私はいつも、『そんなの進学する前からわかっていたことなのでは?』と不思議に思うんです。
 

横山さんの場合は、すごく早くから将来の市場価値を考え、アクションをとっていますよね」
 

横山「マッキンゼーの人は、皆どんどん転職していくんです。だから、『これは自分もきちんと考えておかないと』という気になりました。
 

あそこで、自分のキャリアは自分で考えることが必要なんだとわかったんです。30歳半ばで追い出されて、その時点で職がなくてもそれは自己責任ですから」
 

伊賀「転職先を3Mに決めた理由は?」
 

横山「15%ルール(勤務時間の15%は、自分の好きな仕事をやっていてもよいというルール)がある自由な会社ですし、3Mと言えばエクセレントカンパニーとして有名でしたから、興味もありました。それで直接連絡し、面接を受けて入社しました」
 
伊賀「3Mではどんな仕事をされたんですか?」
 

横山「製品開発のプロジェクトマネージャーです。自分で事業プランを考えて企画を通し、OKとなれば予算や人がつきます。最初は2名のチームからスタートし、途中で『これはいける!』となると次第にメンバーが増えてきます」
 

伊賀「研究者、技術者というより、プロジェクトマネジメントが主な、文系的な仕事ですか?」
 

横山「あくまでも製品開発が中心ですが、他部門調整や財務や営業など、幅広い仕事をすることになりました」
 

伊賀「どんな製品を開発していたんですか? 7年間、在籍されたんですよね」
 

横山「ディスプレー関連の新規事業です。大成功とは言えませんが、なんとかパイロット製造までこぎ着けることができました」