研究者からバイオベンチャーの社長へ


伊賀「今回はこれまでのキャリアを振り返って、それぞれのステージで何を学んでこられたのか、という点についてお聞きしたいです」
 

横山「理系の学生の場合、4年生で研究室に入った時から、生活が一変します。学生ではなく既に社会人としての生活が始まっているんです。
 

修士、博士課程では論文発表や学会参加など一種のノルマもありますし、評価される基準も明確で、個人の成果を問われます。
 
学生から初めて『アウトプット(成果)が問われる世界』に入りました。私の場合、返済義務のない奨学金も貰っていたので、給与を受け取っていたのと同じ感覚ですし、まさに社会人として研究をやっていました」
 

伊賀「お金を払って勉強する学生の世界から、お金をもらって研究成果を問われる大人の世界へ移行したということですね。その時期に学んだことで、最も重要なことはなんですか?」
 


<大学院時代>
 
 
横山「御園生誠先生は、触媒化学の分野では世界的に有名でしたし、日本の第一人者でもありました。だから視点が常に世界を向いていて、『世界一の研究じゃないと全く無意味だよ』と、よくおっしゃっていましたね。『世界で認められないような研究では税金の無駄遣いだ』と」
 

伊賀「先生が、世界に目を開かせてくださったということでしょうか?」
 

横山「そうですね。『目線を高く持て。目指すべきは世界のトップレベルなんだ』ということを学びました。
 

当時は、相当に自信のある研究結果をもっていっても、『全然ダメだ』と突き返されたり・・、目線の高さが上がったと思います」
 
 

★マッキンゼーからの学び★

 

伊賀「次のマッキンゼーでは、何を学びましたか?」
 

横山「チームで仕事をすると言うことを学びました。研究者の仕事は個人技ですから、みんなで仕事の工程表を作って共有する、というようなことがないんです。
 
あと、化学は『実験して決める』学問なのに、ビジネスの社会では『話し合って決める』ことが多いですよね。普通の人には当たり前かもしれませんが、私には新鮮なことでした」
 

伊賀「『話し合って決める』のが新鮮だなんて、それこそ私には新鮮な話です(笑) 組織として、チームとして仕事をする、ことを学んだわけですね」
 

横山「はい。それ以外にも、仕事に取り組む上での基本姿勢の多くを学びました。自分から積極的に手を挙げて物事に取り組むとか、いいと思ったことはどんどん提案することなど。後から気がつきましたが、マッキンゼーは、みんなそういう基本がしっかりできていますよね」
 
 

★3Mからの学び★

 

伊賀「3Mではどうですか? マッキンゼーで学んだ仕事のやり方を使って、実際の成果を出されたということでしょうか?」
 

横山「3Mで新たに学んだのは、ひとことでいえば“泥臭いこと”です。政治的な思惑も含め、リアルな部門間交渉や、営業現場でのやりとりとか、ビジネスでは様々な局面があることを学びました。
 

マッキンゼーだと、会議で決まったことは放っておいても進み始めますが、大きな組織では会議で決まっても、そのまま自然に物事が動き始めたりはしません。他部署の仕事だからとか、あいつは気に入らないとか、そういう感情面が、仕事の進み具合を左右することもあります」
 

伊賀「マッキンゼーは理屈で動く世界だったけれど、理屈では動かない世界もあるとわかった、ということですね」
 

横山「そんな感じです。それも大事なことなんです。交渉する時でも、最初から理屈ではなく、まずは信頼感を築いて、『あいつの言うことなら』と思ってもらって、その後で理屈で説得していく、そういうプロセスが非常に大事なのだと学びました」
 

<3M 開発マネージャー時代>
 
 

伊賀「研究者の時代と、3Mでの開発者としての仕事を比べると、何が違いますか?」
 

横山「一般的に研究者は、論文にならない製品開発や製造の仕事を下に見るところがあります。開発って、新しいことをやってるわけじゃないですから。論文も出ないし、サイエンスのレベルとしてはたいしたことをしていない、と。
 

でも開発をやってみて、これはこれで大変な仕事だとわかりました。製品開発は細部まで全部、完全に詰めないと動かない。最終製品として世の中に出すためには、ものすごい詳細なレベルで完成度を上げていかなくちゃいけない。研究とは違う、難しい仕事だと理解しました」
 

伊賀「プロジェクトマネージャーですから、組織管理とかチーム管理の面でも学びがあったのでは?」
 

横山「誤解を恐れずに言うと、『普通の社会』で働くということを学びました」
 

伊賀「どういう意味ですか?」
 

横山「世の中にはいろんな人がいるじゃないですか。すべての人が仕事に燃えていて、優秀で、やる気があるわけじゃない。研究者の時はもちろん、マッキンゼーでも周りに“やる気のない人”なんていませんでした。

 
でも大きな組織では、そういう人もいるし、上司の目を気にして動いている人もいる。そういう人も含め、組織をマネッジしていかなくちゃいけないと理解しました。

 

それが普通の社会だし、その中で成果を上げていける人が本当に優秀な人なんだと。今から思えば、大学の研究室やマッキンゼーは少し特殊な世界だったかもしれません」
 
 

★リプロセル経営者としての学び★

 
伊賀「リプロセルで経営者になってから学ばれたことは、どんなことでしょう?」
 

横山「経営者は一瞬たりとも立ち止まれないんです。何かひとつ巧くいっても『ああよかった』と安心することができません。一生終わらない将棋を指しているような感じなんです。

 
今日は大成功だと思えても、翌日にはライバル会社がなにか画期的な商品を発表するかもしれません。明日何が起こるか、常に頭から離れないんです。
 

『終わった! 良かった!』という気持ちになれることが一瞬もないんです」
 

伊賀「大変なお仕事ですね。2011年3月の東日本大震災も影響がありましたか?」
 

横山「大変でした。電気が止まると、培養中の細胞がみんな死んでしまいます。

 
ライバル企業がどう出てくるかだけでなく、突然、予期できない自然災害で大変な事態になることもある、輸出が始まれば為替も気をつけないといけないし、国内でも、関連する規制が突然、変わってしまう可能性もある。

 
何が自分のビジネスに影響するかわかりません。だから社長は、全方向で常に備えていなくちゃならないんです」
 

伊賀「『何があってもなんとかする』というのが経営者の仕事というわけですね」
 

横山「こんな小さな会社でも、何十人の従業員とその家族を合わせれば、百人弱の生活がかかっています。トップの経営者の責任や重圧は全く違うと思います」
 


<インタビュー当日@リプロセル会議室にて>
 
 

伊賀「他に、学ばれたことは?」
 

横山「事業の調子がいい時に寄ってくる人は、信じてはいけないということですね」
 

伊賀「態度が豹変する人が多いんですか?」
 

横山「たくさんいます。リプロセルでは何度も山と谷を経験しましたが、毎回同じことが起ります。
 

調子のいい時はすぐに人が集まる。悪くなると、さっといなくなります。いい悪いではなく、そういうものだということは、理解しておく必要がありますね」
 

伊賀「反対に、こういう人に支えられている、という人はいますか?」
 

横山「リプロセルは本当に多くの人に支えられていると思います。やればやるほど、自分だけでは何もできないことが良くわかります。

 
ベンチャー企業で成功した人や、会社を一代で大企業にした人などから、ビジネスをして成功していくためには何が大事か、会社を大きく飛躍させ、世界に出ていくにはどういうことが必要なのか、様々にアドバイスを頂いて大変助けられています」
 

伊賀「それはすごい。助かりますよね」
 

横山「自ら技術系の会社を立ち上げ、その分野で世界一にした方から直接アドバイスをもらえるのはとてもありがたいです」
 

伊賀「やはり、同じ経験をされている起業家の方からのアドバイスが一番ですね」