英語を活かせる国際的な仕事? 40代で天職に巡り会うまで


伊賀「ノバルティスから部門ごとネスレに委譲されて・・、その後、現在の糸井事務所への転職が、ユニークなキャリア変更ですよね。5年働いて、転職を考え始めるタイミングだったんでしょうか?」
 

篠田「子どもが二人になって、仕事の範囲もどんどん大きくなる。一日24時間じゃ全く足りないという状況になりはじめていました。やるべきこと、やりたいことが多すぎて、自分のキャパシティを超え始めていたと思います」
 

伊賀「当時のネスレニュートリション株式会社では、経営企画統括部長なんですね。経営者の右腕のポジションでしょうか?」
 

篠田「トップの参謀でもあり、管理部門のヘッドでもあるというポジションです。財務関係の他、SOX法対応などコンプライアンス関係の仕事もあります」
 

<ノバルティス本社にて>
 
 

伊賀「経営全体が見られるとはいえ、コンプライアンスなんて話になると、篠田さんの苦手な書類仕事も多かったのでは?」
 

篠田「今回は部長ですから、自分が苦手なことは、そういうことが得意な人に任せることもできました。細かいことが私よりはるかに得意な人もいますから(笑)。
 

それに、そういう人達の仕事振りを見て、『なるほどー、そういうふうにやれば巧くいくのかぁ』という学びもありました」
 
 

★エグゼクティブ・グローバルキャリアへの扉の前で★

 
伊賀「すごく評価されてらしたんですよね?」
 

篠田「ありがたいと思っています。ただ、ああいうグローバルな企業で評価されると、本社のあるスイスで働かないかとか、日本の役員じゃなくて、アジア全体、あるいはグローバルな役員の右腕ポジションに移らないかとかいうオファーを受けることになるんです」
 

伊賀「ゴーンさんなんかも、あちこちの国を渡って働いていますよね。篠田さんは、そのオファーを受けようとは思わなかったんですか?」
 

篠田「子育てや家庭との両立という問題もありました。でもなにより、そういうことにワクワクできない自分にも気がつき始めてたんです」
 

伊賀「ワクワクできない? どういうことでしょう?」
 

篠田「グローバルな一流企業で、出世階段を上り、本社のマネジメントメンバーを目指すという、当時、目の前に見え始めたキャリアに、いまひとつワクワクしなかった、ということです。
 

それを追求すると、自分の決裁すべき予算や、カバーする市場の範囲がどんどん大きくなり、部下の数も増えて世界中に拡がり始めます。もちろん給与もあがります。でも、そのことに興味がもてないし、それをやっている自分の人生がすごく楽しいとは直感的に思えなかった」
 

伊賀「Whartonの時、金融端末を一日中睨んで、大金を稼ぐという仕事をおもしろいと思えなかったのと同じですね?」
 

篠田「その通りです。自分がやりたいこと、好きなこととは違う方向だと感じました」
 

伊賀「そこに今のポジションの話が来た?」
 

<糸井重里氏を交えて会議中> (copyright: Hobo Nikkan Itoi Shinbun)
 
 

篠田「知人から、糸井重里さんと会える機会があると言われて、大喜びで出かけて行ったんです。私は『ほぼ日』ができた当初からの糸井さんの大ファンだったので、最初はごくミーハーなノリでした」
 

伊賀「最初から転職という感じじゃなかったんですね」
 

篠田「お話しをして、最初はプロジェクトの手伝いを手弁当でもやります!って感じでした」
 

伊賀「それで実際に手伝ったら・・」
 

篠田「すごく楽しかったんです。『ああ、この仕事楽しい!』ってすぐに思いました」
 
 

★40代で巡り会った“私の仕事”★

 

伊賀「こちらで働き始めてすでに4年以上ですよね? 今もそう思いますか?」
 

篠田「思います。私は40代になって初めて、自分はこういうことがやりたかったんだ!と確信できる仕事に巡り会えたんです」
 

伊賀「この転職は、篠田さんにとって、大きなキャリアの転換点ですよね。ここまでは、留学の後、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレと、すべてグローバルな大企業ばかりです。
 

でもここは、糸井さんはすばらしい方ではあるけれど、企業としては従業員50名足らずの個人企業です。4年前ならもっと小さな組織だったでしょう?」
 

篠田「最初は友人にも、なぜこういう転職をするのかと言われました。英語や金融やグローバルファームの経験がそれだけあって、なぜもっと上を目指さないのかと」
 

伊賀「上って、先ほど言われていた、本社のマネジメントメンバーを目指す道ですよね? それにはもう興味がなかったということでしょうか」
 

篠田「自分ではこちらの方が、自分が好きなことだと感じ始めていました。それでも最初の頃は、周りには『留学するつもりで、ここで働いてみる』って言ってたんです」
 

伊賀「経験の幅を広げるための短期の転職であって、最終的なゴールじゃないんだという意味ですか? でも今はそうは思ってないですよね」
 

篠田「当時だって、自分のやりたいことはわかっていたと思います。でも、それまで経験してきた職場とずいぶん違いますから、本当にここにフィットして役に立てるのか、分かりませんでした。自信をもってそれを言えるようになるのに時間が必要だったでしょう」
 

伊賀「今の仕事の何が、そんなに篠田さんに合っているんでしょうか?」
 

篠田「仕事内容、自由度、子育てとの両立のしやすさなど、ポイントはいくつもあります。

 
さらに、今から考えると、『独自の価値観があって、その価値をものすごく大事にしている組織』というのが、私は大好きなんです。実はマッキンゼーもそうでした。そして、今の糸井事務所もそうなんです」
 

伊賀「長銀やノバルティスはそうではなかった?」
 

<篠田真貴子さん>

 
 
篠田「長銀は常に興銀を意識していました。ノバルティスは、ユニークな価値観というより、各機能としてものすごく高い生産性を誇る組織です」
 

伊賀「ちょっと言い方に語弊があるかもしれませんが、篠田さんて、いわゆる“宗教がかった会社が好き”ってことでしょうか(笑)?」
 

篠田「そうかもしれません(笑) 仕事って、人事をやりたいとかマーケティングをやりたいとか、若い時ってそういう機能や職種、もしくは業界で選びますよね。でも実際に働いてみると、自分にとって何が大事かという基準は、業界、職種、機能だけではないんです。
 

私の場合は、独自のユニークな価値観をもつ組織で、しかもその価値観が自分の価値観とぴったり合うかどうかということが、とても重要でした」
 

伊賀「そういうことに気がつくのは大事だけれど、すごく難しそうです」
 

篠田「実際、私も40歳近くまで、そのことに気がつけませんでした。しかも、自分に合わないいくつかの組織で働いたからこそ、気づくことができたんです」
 

伊賀「試行錯誤なくして、自分の欲しいモノはわからなかったということですね」
 

篠田「だから私は、 『ここは嫌だなあ』と思える場所に一時期身を置くことを決して無駄だとは思いません。もちろん長く我慢する必要はないけれど、何が好きで何が嫌いか、それは両方を体験しないとわからないと思うんです」