英語を活かせる国際的な仕事? 40代で天職に巡り会うまで


伊賀「最後に、高校生の頃の篠田さんがもし目の前にいたら伝えたいこと、もしくは、今、高校生である後輩に向けてのメッセージをお聞きしたいです。
 

ここまででも、早いうちに海外でひとりで暮してみるなどのお勧めをいただきましたが、他にもなにかアドバイスがありますか?」
 
篠田「まずは、欲張りに生きろということでしょうか。キャリアを積んでいく中では、ふたつの道のどちらを選ぶかといった選択を迫られることがよくありますけど、私としては後輩達には『両方やってみて』と言いたいです」
 

伊賀「家庭と仕事とか?」
 

篠田「それももちろんですが、それだけじゃなくて、国際機関と金融機関とか、興味のある業界がいくつもあるなら、両方に道の開ける方法がないかと考えるってことです」
 

伊賀「貪欲に欲しいモノを手に入れにいきなさいということですね」
 

<オフィスで働く篠田さん> (copyright: Hobo Nikkan Itoi Shinbun)
 
 

★合わないことの方がよくわかる★

 
篠田「はい。それとは反対に、苦手なこと、イヤなこと、嫌いなことを見極めるのも大事ですね。そして、これはダメだと思ったら全力で逃げることです(笑)」
 

伊賀「ユニークなアドバイスですね。実は私も『逃げる』って大事なことだと思ってます」
 

篠田「自分が何がやりたいかって、そう簡単にはわからないものではないでしょうか。私も、グローバルファームに入りたい、世銀に入りたいと思ったけど、それって本当にやりたいことだったかと言われると、微妙です。
 

でも人は、『興味ないこと』『やりたくないこと』はよりクリアにわかると思うんです。だから、やりたいことより、やりたくないことに関する感覚を大事にしたほうがいいかもしれません」
 

伊賀「なるほどー。たしかに『やりたくないこと』に関しては、自信をもって『やりたくないっ!』って言えますね!」
 

篠田「でしょ。だから、消去法で自分に向いていることを探すのは悪い方法ではないと思うんです」
 

<篠田真貴子さん>
 
 

伊賀「参考になります。他にもアドバイスがありますか?」
 

篠田「世間の評価基準を離れて、自分の物差しをもつことですね。」
 

伊賀「具体的には?」
 

篠田「たとえばネスレのような企業で働いていて、本社のスイスで、より高いポジションで働いてみないかと言われるのは、一般的には大きなキャリアチャンスです」
 

伊賀「たしかに。世界的企業の経営陣へとつながる道ですよね」
 

篠田「でも、自分がワクワクしなかったら、いくら世間的に評価されても意味がありません
 

伊賀「それが“自分の物差しを持て”ということなんですね」
 

篠田「そうです。自分の感覚的な気持ちに素直になったほうがいいです。周りからいくらいい道だと言われても、自分がそう感じないなら、自分の感覚の方が正しいです。それと、形に惑わされないことも大事です」
 

伊賀「というと?」
 

篠田「帰国子女だと、国際的な仕事がしたいといって、みんなソニーや国連の名前を挙げるという話がありましたよね。
 
同じように、英語が活かせてグローバルな職場というと、マッキンゼーやノバルティス、ネスレのようなグローバル企業のことばかり思いつきます」
 

伊賀「でも、そうじゃない企業でもグローバルに仕事ができるチャンスがあるってことですね?」
 
 

★グローバルな仕事とグローバルファーム★

 
篠田「その通りです。今、私は日本人しかいない小さな企業で働いています。
 
でも、だからこそ、今からこの会社の価値観、糸井がやろうとしていること、私たちが成し遂げたいと思っていることを、どう世界に発信していくか、ということをゼロから考えることができるんです」
 

伊賀「若い頃は、日本人しかいない小さな企業で国際的な仕事ができるとは、みんな考えない・・」
 

篠田「今は、糸井が海外の方と対談する場合の通訳や、先日いただいたポーター賞のためのプロジェクトなど、いろんな海外絡みの案件を担当しています。
 
こういう場所だからこそ、自分でゼロから、どういう道筋で世界にでていくのかを考えたり、リーダーシップを発揮できるとも言えます」
 

伊賀「ネスレやマッキンゼーは、グローバルファームとしてある意味、完成された組織ですよね。

 
そういう企業に入って、できあがった舞台で仕事をするというのもあるけど、今、全くそうなっていない組織を、自らリーダーシップをとって世界に打ち出していく仕事もあるってことですね」
 

篠田「新卒ですぐにそれができるかどうかはわかりませんが、キャリア形成の中では、そういう選択肢はあってしかるべきだと思います」
 


<Hubspot社長のBrian Halligan氏、糸井重里氏と打ち合わせ> (copyright: Hobo Nikkan Itoi Shinbun)

 
 
伊賀「そういえば、2012年、『ほぼ日』は今年ポーター賞を受賞しましたが、こちらも篠田さんの提案だったのでしょうか?」
 

篠田「そうです。今後、この組織がどこを目指すべきなのかということの指針にもなると思ったし、世界に認められるために役立つプロセスのひとつとしてチャレンジすべきだとも思いました」
 

伊賀「誰かに言われた目標を達成するために必死で頑張るのではなくて、自分で目指すべき場所を設定していく、そういう仕事って、まさに自分の仕事という感じがしますよね」
 
 

★最高財務責任者としての仕事★

 

伊賀「もうひとつ教えて下さい。篠田さんは現在Chief Financial Officer、つまり財務の最高責任者ですよね。ネスレでも財務を含め、管理部門のヘッドでした。
 
部門のトップとして仕事をするというのは、大変なことですよね?」
 

篠田「管理部門の各分野の知識、たとえば財務や人事、法務などの基礎知識やセンスはもちろん大事なのですが、やはり責任者になると、個人の倫理観や厳しい判断を問われる場面も多くなります」
 

伊賀「人事の責任者であれば、時にはリストラ判断をする必要もありますよね。たとえ終身雇用ではない外資系企業でも、それは大きな判断だと思います」
 

篠田「どの企業もそうですが、ビジネスがずっと調子良くて、社員は全員が有能で一生懸命働いて、ということなら経営者なんて不要です。でも現実にはそうではありません。
 
いろんな問題が起こるし、時には難しい判断を迫られます。もちろん私もまだ勉強途上なんですけれど」
 

伊賀「ビジネススクールの授業に、“道徳(Ethics)”という科目があるじゃないですか。私も当時はその意味がよくわかっていませんでした。自分はお金のために悪いコトなんてしないから、関係ないわと思ってた。でも、あの科目の意味ってそういうことじゃないんですよね」
 

篠田「仕事って多くの人の人生に関わっています。利益だけを追って計算機で判断できるものではありません。だから経営者は、常に真摯な態度で判断することが求められます。時には厳しい判断をしたり、正解のない問題をひとりで抱え続けるタフさも必要です」
 

<ポーター賞授賞式の記念写真> (copyright: Hobo Nikkan Itoi Shinbun)
→ ポーター賞サイト(2012年受賞)
 
 
伊賀「大変勉強になりました。私も心してこれからの仕事に臨みたいと思います。
 

今回お話しを伺う前、篠田さんは帰国子女で最初から英語も得意だし、環境にも時代にも恵まれていて、すごく順調にキャリアを積んでこられたのかなと思っていたんです。でもお話しを伺っていて、本当にいろいろ試行錯誤しながらここまでやってこられたことがよくわかりました」
 

篠田「たしかにいろいろ恵まれていたと思います。今から思えば、若い頃は勘違いしていたり世間知らずだったり、今もしあの時の自分に会ったら、目を覚ませ、しっかりせよと叱りつけてやりたいくらいです(笑)
 

でも、だからこそこのインタビューをお受けしたんです。漂流して、試行錯誤するキャリアもあるんだという話が参考になる人はきっとたくさんいると思ったので」
 

伊賀「すごく参考になると思いますよ。あと、篠田さんはいつも自分の直感に素直で、常に全力投球だし一生懸命ですよね。それがここにきて、“本当に楽しいと思える仕事”にたどり着けた原動力かなって思いました」
 

篠田「たしかに素直さと元気さには自信があります(笑)」
 

伊賀「今日は大変、興味深いお話しをありがとうございました。今後、益々のご活躍に期待しています!」
 

篠田「こちらこそ、ありがとうございました!」