波瀾万丈のグローバル転職キャリア形成記


伊賀「まずは TESCOでのお仕事について教えてください」

 
白鳥「 TESCOはイギリスでは最大手のスーパーで、日本には8年ほど前に『つるかめ』という屋号をもつシーツーネットワークという中小スーパーを買収して進出してきていたんですが、上手くいっていませんでした。
 

私が入った時には、イギリス人が数名と、小売業界出身の日本人が数名という陣営で経営を見ていたんですが、通訳を入れないと経営会議が進まないという状態でした」

 

<イギリスのテスコ本社>
 
 

伊賀「それは大変ですね。日本って外資系のスーパーマーケットが成功するのはすごく難しい市場だし・・・」
 

白鳥「最初は私も、英語ができる日本人というだけでスゴク重宝されました(笑)
 

日本には特殊な商習慣や顧客行動があって、海外の人がそれを理解するのが難しい。なのに言葉の壁があるから、日本人スタッフもそれをイギリス人に説明できない。
 

私が入社してひとつずつ説明しはじめたら、そのうちなんでも『Akira!』、『Akira!』と言われるようになりました」
 
 

★転職後半年で日本撤退。思いがけず香港へ★

 

伊賀「ところが入って半年で、TESCOが日本からの撤退を決めてしまうんですよね?」
 

白鳥「イギリス本社のトップが十数年ぶりに変わり、日本からの撤退が決りました。自分で会社の一部門の意思決定をし、自らビジネスを進めるのは楽しかった。もちろん成果も出始めていましたが、やはり半年では無理でした。残念ですが仕方ありません」
 

伊賀「それでどうなったんですか?」
 

白鳥「転職も覚悟したんですが、イギリスの本社から、香港のアジア本部で働かないかと言われてそちらに移りました。中国や韓国、タイ、マレーシア、インドの5カ国のオペレーション改善担当のダイレクターです」
 

伊賀「香港が拠点といっても、アジアのあちこちに出張して働くわけですね?」
 

白鳥「はい。香港には週末プラス一日くらいしかいない感じです」
 


<TESCO香港での白鳥氏のオフィス> 
 
 

伊賀「最近、外資系企業ではアジア本社を香港やシンガポールに置き、アジア全体をカバーする、そういう仕事が増えてますね。やりがいはあるけど、体力的には大変そうですね」
 

白鳥「香港に来て 10ヶ月で 120回以上も飛行機に乗りました(笑) 体力的に問題とは思いませんでしたが、マッキンゼーに戻ってしまったように感じていました。
 

というのも、各国を回って仕事の指示やアドバイスをするのが主な仕事で、社内コンサルタントみたいな役割だったんです。自分でビジネスの意思決定をするのではなくて、各国の CEOや COOの意思決定をサポートするのが主な仕事でした。
 

私がマッキンゼーを辞めたのは、コンサルタントではなく経営そのものに参画したいという理由でしたから、TESCO内であれ外であれ、どこかのタイミングでもう一度、経営者としての仕事、そのための経験を積める場所に戻りたい、と思っていました」
 


<TESCO ASIAの同僚と>

 
 

伊賀「その後は日本マクドナルドを経て、今はスポーツ用品メーカーで、小売りでもあるアルペンの執行役員なんですね」
 

白鳥「マッキンゼー時代に一緒に働いた方から声をかけていただき、ご縁があってそうなりました」
 

伊賀「分野は違うように見えますが、いずれも個人向け商品の小売業、そして、白鳥さんのポジションも経営企画や戦略立案の担当という共通点があります」
 

白鳥「最終的には経営者になりたいと思っていますから、いろんな組織の経営を学びながら、もちろん、ひとつひとつの場所できちんと価値を出していきたいと思っています」
 

伊賀「期待しています。それにしても、大企業に一生勤めるのがいい人生だと思っていた人が、こんなに何度も転職することになるなんて」
 

白鳥「妻の父からも、『転職ばかりして、明君はどういう了見なんだ?』って言われてます(笑)」
 

伊賀「そう言いたくなる気持ちもわかります。転職を繰り返して学んだことも多いですか?」
 

白鳥「転職をすると、入社前に想像していたこととは違うことがたくさんあります。でもそれこそが、学びの源になるんです」

 

<香港にて 奥様と>
 
 
伊賀「偉いですねぇ。転職して、思っていた状況と違うと、普通は『聞いてた話と違う! 騙された!』と怒りそうですけど」
 

白鳥「そこからどうするかが、問われるところですから。現実を受け入れて頑張ってみると、そこには多くの学びと成長の機会があるんだと気がつきました。
 

あと、いろんな企業で働いたことで、フリーエージェントとしての覚悟がつきました。今、私には『会社に守ってもらう』という感覚は全くありません。クビになったらどうしよう、会社が潰れたらどうしよう、という気持ちもないです。
 

対等の立場で会社と契約を交わし、求められる価値をきちんと提供する。その対価として適切な報酬をもらう。それだけです。自分を守ってくれるという意味での『いい会社』で働きたい、とは思わなくなりました」
 

伊賀「そう思えるだけの、経営に必要なスキルや経験はマッキンゼーで身につけたのでしょうか?」
 

白鳥「マッキンゼーでは、巨人の星みたいに、“グローバルビジネス養成ギブス”を付けられるんです(笑) 問題解決のセブンステップ、ファクト&ロジックなど、基本はあそこで学びました。
 

でも私はまだ大きな組織を自分で経営し、実績をあげた経験がありません。次は是非それにチャレンジしたいですし、それによって、また次の成長ができると思います」
 

伊賀「大企業に守ってもらうことには興味はないけれど、大きな会社で働くことには意味があるということですか?」
 

白鳥「私は最初に起業も経験しました。起業して 10億円まで売上を伸ばすのは大変なことです。でもその一方で、10億円という数字は、社会全体のビジネス規模から見たらごく小さい。
 

一方、大企業には何万人、何十万人の人が働いています。顧客の数も膨大です。そこで価値を出せたら、社会に出せるインパクトも桁違いに大きい。特にこれからは、自分の生れたこの国でそういう仕事をしたいですね」
 

伊賀「だから香港から日本に戻ってきたんですか?」
 

白鳥「それが転職理由のすべてではありませんが、日本は今、必ずしも経済が高成長しているわけじゃない。そういう時期だからこそ日本で頑張るのもいいかなと思ったんです」

 
 

★電車を降りて、自分の足で人生を歩こう!★

 

伊賀「最後に、今の高校生や大学生へのアドバイスを頂きたいのですが」
 

白鳥「まずは『電車を降りろ、自分の足で歩け』ということです。自分で意識してそうする人、私のように半ば外的環境によってそうなる人、様々でしょうが、とにかく電車を降りることですね。
 

私は NECを辞めた時に電車を降りました。一度降りた電車は行ってしまうので、もう乗れない。自分で歩くしかありません。線路もない。自分でどっちへいくのか決めて歩くんです。
 

降りる前は、電車を降りるなんて怖くてとてもできなかった。でも降りてみてはじめて、人生の広がりを感じることができました」
 

伊賀「 NECの研究チームが廃止になった時に、電車を降りなかったらどうなっていたんですか?」
 

白鳥「筑波にある基礎研か、携帯電話関係の事業部で働くことになったと思います。今でも NECの社員だったかもしれません」
 


<マッキンゼーのマレーシアでのプロジェクトメンバー>
 
 

伊賀「それは全然違う人生になっていたでしょうね。他にもアドバイスがありますか?」
 

白鳥「『コンフォートゾーンから飛び出すこと』も大事ですね。人は、自分が心地よいと感じられる場所に長くいたら成長できません。大変な思いをしてこそ成長できる、変わることもできると、身をもって学びました」
 

伊賀「厳しい場所にいてこそ伸びるということですね」
 

白鳥「駄目な人は、どこに行っても愚痴ばっかり言っています。悪い面ばかり見るからです。そうじゃなく、良い面だけ見てればいいんです。そして必死で頑張れば必ず道は拓けます」
 

伊賀「白鳥さんは、柔軟性も高そうです」
 

白鳥「そうですね。でも私は自分の信条に合わないことはやらないですよ。自分が正しいと思うことだけやっています。
 

あと、いい波が来たらとりあえず乗ってみるようにしてるんです。機会があればチャレンジしてみる。『やりますっ!』って言ってみる。それが自分を次のステージに連れて行ってくれるからです。『いい波が来たけど、怖いから動かない』のはあまりにもったいないです」
 

伊賀「こうやって話していると忘れそうになりますが、白鳥さんはレーザー工学の博士号をもっていますよね? 理系学生のキャリア形成についてはどう思われますか?」
 

白鳥「『理系に行ったらエンジニアにならないともったいない』と思っている人がいますが、あれは変えた方がいいですね」
 

伊賀「世界が狭いということですか?」
 

白鳥「理系の世界には、技術は無条件に尊いものだという感覚があります。文系に行く事を“文転”と言ってちょっと馬鹿にしたりする。そして自分の研究や実験に没頭し、別の世界の人とあまり話さない人もいます。これでは世界が拡がりません。
 

もちろん研究開発で価値を出せる人、情熱を持てる人はそこでやればいい。でも大学の時に理系だったからという理由だけで、『メーカーに就職する』、『エンジニアになるしかない』と決めつける必要はありません。可能性はもっと広いはずです」
 


<白鳥明さん>
 
 
伊賀「白鳥さんが今、理工学部の 3年生だったら、どういうキャリアを選びますか?」
 

白鳥「ドクターコースには行かないかな。ビジネススクールに行って起業とか、そういうことを考えると思います。あと、早めに海外の企業で働くでしょうね」
 

伊賀「中学生の時は一流企業に入って出世することを夢見ていたのに、ずいぶん変りましたね」
 

白鳥「リスクのある環境、ストレッチする環境に身をおけば、人は一気に成長しますから。今も、正社員での雇用さえ必要とは思っていないんです。
 

数年契約で、実績が出せなかったらクビだよという契約でもいい。それの何がリスクなのかわからない。頑張って実績を出す動機になるし、失敗して、駄目なところが見つかれば直せばいいだけです。そういう過程を踏まないと、人間って成長しないと思います」
 

伊賀「そこまで言われると気持ちがいいですね。
 
今日はすごくためになるお話しが聞けました。これからも期待していますので、頑張って下さい」
 

白鳥「ありがとうございます!」