IT、経営、大学、政治・・・縁がつなぐキャリア形成


伊賀「最後に、江端さんがキャリア形成に関して大事だと思われていることについて、お聞きしていきたいと思います」

 

江端「社会人一年目の時、コピー取りが仕事だったと言いましたけど、一見雑用のように見える仕事でも、なんとか工夫して貢献できないか、何か学べることはないか、と考える姿勢が大事だと思います。
 
あの仕事も表面的にはコピー取りですが、別の見方をすれば、『すべての資料を、自分が最初に読む機会を得た』とも言えます。
 

機械的にコピーをとるだけじゃなく、中身に関心をもっていれば、異なる部署から送られてきた資料に食い違いが出てきても直ぐに気がつくし、組織の動き方が見えてくるなど、いろいろ学べます」

 


<議員会館の窓から見える官邸>
 
 

伊賀「雑用からでも貪欲に学ぶということですね?」

 

江端「だれだって社会人一年生、政治家一年生の時があります。最初から大きなプロジェクトを任されるなんてありえません。でも、一年目の仕事を一年目にきっちりやって、いつどんな話が来てもやれるだけの力を蓄えておく、準備をしておく、ということが大事だと思います」

 

伊賀「江端さんのキャリアでは、そういうところをまじめにやってきて、それがここにきて大きく花開いていますよね。頭が下がります。

 
あと、2009年の選挙以降のお話を伺っていいですか?」

 

江端「選挙前、2007年に母が亡くなりました。中学受験をしていた息子の合格発表の日でした。合格を伝えたらすごく喜んでくれました。ただ、『気分がすぐれないので、お医者様の往診を頼んで欲しい』と言われ、その後、先生が来られて私も母の部屋にいったら、その直前に亡くなっていたんです」

 

伊賀「その日まで普通にお話しされていたんですね。お孫さんの嬉しいニュースが間に合ってよかった。お母様はおいくつだったんでしょう?」

 

江端「79歳でした。病院を嫌っていたので、最期に自宅に居ることができ、安らかに逝けたのかなとは思います。」

 

伊賀「期待の娘さんも大活躍されているし、お孫さんも順調だし、お母様もお幸せだったと思います」

 
 

★2009年政権交代 激戦を乗り越えて国会議員へ★

 

伊賀「その後は、選挙にまっしぐら、という感じでしょうか?」

 

江端「2009年には選挙があることが確実でしたから、民主党からは最終的な意思確認の連絡があり、『でます』と答えました」

 

伊賀「江端さんといえば、東京10区で自民党の小池百合子さんを破っての当選だったわけですけど、あれはどういう経緯で?」

 

江端「私は新人ですから、選挙区は党や諸先輩からのアドバイスで決っていくんです。中には『そんな厳しい選挙区から出る必要はない。もっと楽に勝てる選挙区もあるんだから』という声もありました。でも、円より子議員が『何があっても私が江端さんを当選させる』と言ってくださって・・・」

 

伊賀「それで東京10区から出ることになったんですね。結果的には戦略的に重要な選挙区からでて勝利できたわけですから、楽なところで当選するより価値が大きいですよね。円議員のご決断はスゴイです」

 

江端「胆力のある議員さんなんです。もちろん党も全面支援してくれて、出馬表明の時も党本部で小沢さんと握手していただき、大きく報道されました」

 

伊賀「その映像は私も見ました。新人議員としては破格の扱いですよね。本当に大変な選挙戦だったと思います。ところで、選挙や政治家ってすごくお金がかかると聞きますが、やっぱりそうですか?」

 

江端「事務所を借りてスタッフを数人雇うだけでも毎月、相当額が必要になります。そのほかにも移動費用や通信費、ポスター代など、かかる費用は膨大です。私の場合、共働きで長くビジネス界で働いてきたので多少の蓄えがありましたけど、確かにその点は大変だと思います」

 

伊賀「ご家族の支援はどうでしょう? ご主人は反対されませんでしたか?」

 


<国会質問に立つ江端議員>
 
 

江端「家族はずっと支援してくれていました。夫は私がアムジェンで働いている時に、一時期どうしてもアメリカ本社で働く必要がでてきた時も『ちょうどいいタイミングだから、自分も転職してアメリカで働く』と言ってくれたような人なんです」

 

伊賀「実際に転職して、江端さんについてこられたんですか?」

 

江端「彼は帰国子女だったので可能だったんですが、あの時は子供もつれて3人でカリフォルニアに赴任し、穏やかな楽しい生活を楽しみました」

 

伊賀「理解あるパートナーに恵まれていらっしゃいますね。羨ましい限りです。 何もかも順調にみえる江端さんですが、政治はこれからも大変そうですね。ご自身は政治家として、これからも長くやっていきたいと思っていらっしゃいますか?」

 

江端「自分が政治を志すきっかけとなった介護制度についても、まだまだやるべきことが残っています。それに、介護と雇用の問題は密接につながっていて、これからは介護のために雇用が脅かされる人も増えると懸念しています。今後はそういった問題にも取り組んでいきたいですね」

 

伊賀「高齢化は進むし、子供は減るし、介護は深刻な問題になることが確実ですよね」

 

江端「予算の問題も大きいです。財政が厳しい中でどう介護制度を充実させていくのか。それを国民にわかりやすく示し、予算の使い方を主権者として決めてもらえるよう、情報公開を進めていくことも重要だと考えています」

 

伊賀「政治家としての使命が明確ですね」

 
 

★自分で自分の可能性を狭めない★

 

それにしても、最初は薬剤師になろうと思っていて、そこから教育学部に入り、先生の薦めでコンピューターの会社、その後もコンサルタント、バイオベンチャーの経営者、大学の準教授、そして政治家と、キャリアが大きく変化してきていますよね。
 
しかも後になればなるほど、大きく羽ばたいて活躍の舞台が拡がっています。江端さんのキャリア形成は本当にすばらしいのですが、もし若い人が同じようなキャリアを歩みたいと思ったら、何に気をつけておくべきでしょう?」

 

江端「先ほど申し上げたように、目の前のことをきちんとやること。人の縁を大事にすることです。あと、自分自身に関して言えば、余計なメンタルバリアを持たないようにすることですね」

 

伊賀「それはどういうことですか?」

 

江端「私もそうだったんですが、みんな案外、キャリアの選択肢を狭く考えがちなんです。私も人に言われるまでMITを受けようとは思っていなかったし、マッキンゼーを受けようとも思っていませんでした」

 

伊賀「帰国子女でもないから一流スクールは無理とか、ITをやってきたんだからITコンサルタントが向いているだろうと思っていたわけですね?」

 

江端「そうです。でも人に言われて初めて、『そういう選択肢もあるんだ!』と気がつきました。『自分はこういう経歴だから、だいたいこんな道を進むのかな』というような、知らず知らずのうちに入り込む固定観念のために、将来の選択肢を狭めてしまうのはもったいないと思います」

 

伊賀「可能性をどんどん広げていく方向を、心がけようと言うことですね」

 

江端「前例や前職に縛られず、自分の可能性を解放するのは大事なことと思います」

 

伊賀「それに加え、江端さんのお話をうかがっていると、すごく大胆に判断されることが多いですよね?
 
介護のために次期社長だったかもしれない会社をスパッと退職してしまったり、いきなり国会議員になろうと立候補してしまったり。
そういう大胆な判断は、迷いなくできているんですか? リスクを感じたり、怖いとは思わなかったですか?」

 

江端「リスクといってもなんとかなることが大半です。私は、『とりあえず扉は開けてみよう』と考えているんです。
 
『扉の向こうに何があるかわからないから扉を開けない』、という判断は私にはないですね。とりあえず扉は開けてみる。それで目の前に拡がる世界で、ベストを尽くしてみようということです」

 


<取材当日の江端さん>
 
 

伊賀「確かにそうですね。
私、今まではビジネスパーソンとしての江端さんしか知りませんでした。だから今日、お話しを伺うまでは、『あの江端さんに政治家なんて向いているのかな?』と半信半疑だったんです。
でも今日、お話しを伺って、すごく政治家向きだと思いました」

 

江端「ほんとですか? なぜ?」

 

伊賀「まずはっきりしてますよね。何を成し遂げたいか、何をやりたいかということが。それと、自信に溢れているのに、とても誠実な姿勢だし。不満があることに文句を言っているだけじゃなくて、自分で変えて行こう、という気概を感じます」

 

江端「ありがとうございます。それは嬉しいです」

 

伊賀「これからまだ政治も政局も大変そうですけど、頑張ってください。長い時間、ありがとうございました」
 

江端「こちらこそありがとうございます。頑張ります!」